アカデミー作品賞受賞作『グリーンブック』を鑑賞する前に知っておくべき3つのこと
日本では3月1日より公開が開始されたアカデミー作品賞受賞作『グリーンブック』。有色人種の差別が残る60年代、黒人天才ピアニストと粗野なイタリア系の用心棒兼ドライバーの二人がアメリカ南部講演ツアーを通じて、信条、友情、絆を深めていくストーリーです。
実話をもとにした感動作であり、マイノリティやダイバーシティが尊重される近年の時代背景もあいまって注目されているのは当然ですが、この映画を単に差別反対というありきたりな感想で終わらせないために、事前に知っておくべきことを3つだけ記しました。
細かい知識を覚える必要は全くなく、当時の時代背景について少しでも知っていただくだけで、映画の魅力を3倍以上感じ取れるはずです!
1.グリーンブックとは
映画のタイトルになっている「グリーンブック」、正式名称は「The Negro Motorist Green Book」。人種差別が色濃く残る時代に、アフリカ系アメリカ人の旅行者が宿泊できるモーテルや利用できるロードサイドのビジネス、ガソリンスタンドを紹介したガイドブックですが、著者はニューヨーク市の郵便局員Victor Hugo Greenで、1936年から1966年まで毎年発行されました。
発行当時は、ニューヨーク近辺を対象としていましたが、公共交通機関における差別や暴力から逃れるために自家用車を購入するアフリカ系アメリカ人が増加したこともあいまって、そのニーズに応えて、対象地域はカナダやメキシコ、カリブ諸島を含む北米全域まで拡大し、著者は旅行代理会社を設立するまでに至りました。
グリーンブックは、Jim Crow Laws(ジム・クロウ法)時代のバイブルと呼ばれ、Civil Right Act of 1964(1964年公民権法)が発効されるまで重宝されました。
2.Jim Crow Laws(ジム・クロウ法)とは
1876年から1964年にかけて存在した人種差別的内容を含むアメリカ南部諸州の州法の総称。
アメリカ南北戦争後、白人農園主たちの黒人労働力による大規模農業が経済の基礎であった南部州では、北部州が奴隷制廃止を掲げる中、奴隷制維持を掲げ、準奴隷システムを正当化するBlack Codes(黒人取り締まり法)を制定し、Jim Crow Lawsの礎となりました。対象はアフリカ系アメリカ人だけでなく、血統主義に基づく一滴規定(ワンドロップルール)に則り、全有色人種でした。
名前の由来は、1828年の白人が黒人に扮して歌うコメディヒット曲「ジャンプ・ジム・クロウ」。顔を黒塗りするブラックフェイスパフォーマンスの中で、ジム・クロウは田舎のみすぼらしい黒人を戯画化した定番キャラクターであり、黒人隔離を指す言葉として使用されていました。
3.Civil Right Act of 1964(1964年公民権法)とは
Jim Crow Laws下で黒人が不当な投票税を課され投票を阻止されていたことを廃止し、雇用機会の均等を雇用主に促す、1963年に議会にかけられた画期的な法案。
時の大統領ジョン・F・ケネディはテレビ演説で、人種間平等の概念を国民に訴えましたが、南部から選出された上院議員の多くは当法案に対して反対していました。1963年11月にケネディ大統領が暗殺された後、その遺志を継いだリンドン・ジョンソン大統領が再度議会に働きかけ法案を通過し、1964年6月に公民権法として発効されました。